会長あいさつ

21世紀を展望する獣医学へ

第151回日本獣医学会学術集会
会長 神田尚俊(東京農工大学)

 21世紀に入って10年が過ぎ、この間、イラク戦争、金融危機などの大事件が起こりましたが、2010年を振り返ってみると3つの出来事が思い起こされます。  第一は日本の惑星探査機「はやぶさ」が、長径、532mしかない小惑星「イトカワ」に着陸して地球に帰還した事であり、日本の科学技術のすばらしさを実感させてくれました。 2006年にフロリダから打ち上げられた冥王星探査機「ニューホライズン」は、この天体の発見者クライド・トンボーの遺灰を載せて現在も宇宙空間を飛行中で、2015年には冥王星に接近し、地球への画像送信が始まります。これまで公開された宇宙空間の星の画像を眺めていると、巨大な宇宙の神秘と人類の叡智を感じさせてくれます。
 第二はカリブ海の水面下5500mにある深海油田の原油噴出事故で、海底1500mの噴出孔から67万キロリットルという過去に経験のない規模の原油流失が発生しました。その影響として、広大な海域の野生動物へ長期にわたる甚大な被害が危惧されています。この事故は人間が手にした技術に対して、過信する事の危うさを示した事例といえるでしょう。
 第三は宮崎県における口蹄疫の大発生です。29万頭の家畜の処分と1000億円にのぼる損失という日本では過去に前例のない規模の被害が発生しました。口蹄疫については、過去の英国の大惨事を教科書で知っていたとはいえ、家畜感染症の怖さをあらためて体感する機会となってしまい、今後の感染症対策に大きな課題を残しました。近年、地球社会のグローバル化の伸展により、人と物資の移動は加速度的にその量を増加させてきており、各種感染症の新たな拡散が危惧される油断のできない時代になってきました。
 ここで、地球的な観点から21世紀を俯瞰してみると、18世紀後半に興った産業革命以降、人類の文明は「無限」を前提として急速に発展してきました。しかし、40年前の1972年に出版されたローマクラブの報告書「成長の限界」は、地球が閉鎖系でありすべてが有限であることを初めて指摘すると共に、その後の世界像を予測しました。現在、その予測が検証されつつあり予測の方向性の正しさが確認されています。この分析に基づいて未来に目を向けてみると、40 年後の2050年頃には報告書の指摘がさらに大きな現実の問題となってくると予想されます。 地球人口は2050年頃には85-90億人に達すると推定され、地球の推定可住限界人口100億に接近してきます、この過程では、温暖化に伴う気象変動を伴いつつ、動物生態系の問題、水問題、食糧問題。環境問題等がさらに多発するようになり、これに関連して獣医学領域においても、現在想定されていない困難な問題が発生してくると思われます。近年、人間活動の増大のよって地球の状況加速度的に変化してきており、獣医学の将来を展望するとき、21世紀中葉の世界をも視野に入れて、変化に備える時代になってきたと思われます。